前回の記事では、ヒューマン・エラーによる事故を
防ぐためには、"決定的なエラーが いつ、どのよう
な状況で起こるのか、統計的・科学的に分析すれ
ば十分に予防できる"という著者の主張をご紹介
しました。
こうしたエラーの分類では、必ずといって良い位
「ハインリッヒの法則」が出て来るもので、僕自身、
情報セキュリティの学習をした初期の頃に触れた
覚えがあります。
この法則では、1件の死亡・重傷事故の背後には
29件の軽傷事故があり、その背景に300の無傷
事故(ヒヤリハット)が存在するとしています。
つまり、"機長が語るヒューマン・エラーの真実"
で語られている「致命的な」エラーとは、ハイン
リッヒの法則の中で、不幸にも頂点に位置する
事故を指していることになりますね。
そして、パイロットのヒューマン・エラーを次の3
つに分類し、致命的なエラーによる事故につい
て様々な事例を紹介しています。
●人間の動物的本能と能力限界から発生するもの
●パイロットの習性によるもの
●行き過ぎたコスト削減によるもの
次回は、これらの事例について、もう少し詳しく
見ていきたいと思います。
■関連リンク
ハインリッヒの法則 - Wikipedia
2011-10-14
致命的なエラー
2011-10-05
機長が語るヒューマン・エラーの真実
前回の記事に引き続く内容ですが、現役ジャンボ
機長の杉江弘さんが書かれた本です。
CRMの概念や歴史については前回の記事にある
関連リンクにも掲載されていますが、杉江さんは、
著書の中でこの目的を「安全で質の高い運航を
確保するため、すべての利用可能なリソース、ハ
ードウェアおよび情報を効果的に活用し、運航乗
務員のチームとしてのトータルパフォーマンスを向
上させること」としています。
しかし、CRMを実行すれば本当に安全なのか?と
いう疑問についてこのようにも書いています。
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世界の航空会社や行政機関は、ヒューマン・エラ
ーをなくすためにこぞってCRM(コックピット・リソー
ス・マネージメント)という活動プログラムを金科玉
条のように採用し始めている。
しかし結論的にいうならば、CRMの理念は間違って
はいないが、その前提として、パイロットなどに高度
な安全教育と訓練を行い、プロフェッショナルな知識
と技量を持たせなければならない。この点、航空界
には経営者から現場のパイロットまで、CRMへの誤
解が蔓延しているといってよい。実際私の周りの部
長職にある何人もの乗員からも、「本当は私もCRM
が良くわからないんですが」と率直な意見が出される。
詳しくは、後述のCRMの項を読んでいただきたいが、
CRMプログラムを十分にやっていれば事故がなくな
るという考え方は、完全に間違っているといいたい。
CRMが我が国に導入されて早や二〇年、二〇〇五
年の初めから立て続けに発生した航空会社のヒュ
ーマン・エラーによるトラブルの多さと内容を見ても、
そして二〇〇六年に入っても同様のトラブルが発生
していることを見ても、それは明らかであろう。
はじめに(P.4)より
※この本は2006年が初版です(筆者注)
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では、どうしたらヒューマン・エラーによる事故を防止
することができるのでしょうか?
それには、"ヒューマン・エラーの真実を知ることが、
事故防止の第一歩になる"とし、決定的なエラーが
いつ、どのような状況で起こるのか、統計的・科学
的に分析すれば十分に予防できる"と主張します。
詳しい内容をさらに書きたいところなのですが、時
間的な制約もあるので次回に続けます。
■関連リンク
ヒューマンファクター事始
2011-10-02
CRMの基礎
航空の世界を学んで感心したものに、"CRM(Crew
resource management)"という考え方があります。
この概念を紹介している書籍やサイトを検索してみ
ると、いかに多くの場所で語られているかが良くわ
かりますね。
ある日、シミュレータを使ってフライトトレーニングを
していた時、このCRMに関わる話題に触れたことが
ありました。
教官を務めて下さった方は、現役時代には旅客機
の機長やパイロット候補生の社内教官をされてい
てトレーニングの合間に聞く事のできたお話に興味
が尽きない中、「準備は厳しく、フライトは楽しくする
んだよ」と一言。更にこんな話もしてくれました。
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上空に上がってから準備不足でオタオタしていた
ら心理的にも余裕がないから、コーパイへ何やっ
てんだ!と厳しく当たることになってしまうけど、
きちんと準備してたら心理的にも余裕ができるか
ら、横でミスしても「どうしたの?」と優しくなれる。
それはクルーマネジメントの基礎になるだろう?
そうやってきちんとプリフライト(フライト前の点検
作業のこと)なんかもやってれば、整備士とか荷
物を積むクルーもこちらのリズムが分かるから合
わせてくれるし、大切なことなんだよ
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確かに、準備不足で舞い上がってしまってはでき
る判断もできなくなってしまうし、ましてや指揮を
執る立場の人がそれでは大変ですね。
感情的にワーっとなってる上をカバーしようと下が
頑張ることで物事が収まっている、いわゆる共依
存のようなケースもあるでしょうが健全な形では
ないように思いますし、そのような状況が続けば、
いずれかのタイミングで物事が破綻する事は避
けられないでしょう。
CRMについては、また別の考察に触れる機会も
あったので、これは項を改めます。
■関連リンク
ヒューマンファクター(人的要因)とエラー対策 1
今日の龍門
2007-11-09 15:15
8. コックピット・リソース・マネジメントの臨床への応用
吉田 泰行
沖縄徳洲会 千葉徳洲会病院 耳鼻咽喉科・健康管理課
宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005
第5回:「航空会社におけるCRM訓練」
Medsafe.Net
テネリフェ空港ジャンボ機衝突事故 - Wikipedia
クルーリソースマネジメント(CRM)に習うソフトウェア開発プロジェクト
相馬純平のブログ
2007-12-25
読書メモ:機長のマネジメント
おざわ日記 全国版
2005年7月20日 (水)
共依存 - Wikipedia