2014-12-28

人間工学に反したパイロット不在の設計-02

前回に続き、中華航空の事故がどのような経緯で発生
したか、FAAのアニメーションや運輸安全委員会による
調査報告書報告書(以後一部を除き"報告書"と記載)
を基に追ってみたいと思います。
(カッコ内の時刻は、協定世界時)

01:
機体は手動操縦で正常にILS進入(地上の着陸
援助装置から出ている電波を利用した滑走路へ
の進入)を続けていた。

02:
機体が気圧高度約1,070ft(326.1m)を通過中、
副操縦士が誤ってゴー・レバーを作動させた。
(報告書 96-5-B1816-01 P.5に記載されている
飛行経過によると当該時刻は11:14:05)。
このため、オートスロットルがゴーアラウンドモ
ードとなって推力が増加した。



03:
ゴー・レバー誤操作から5秒後(11:14:10)。
機長がゴー・レバーの操作に気づいて「君、君は
そのGO LEVERを引っかけたぞ」と副操縦士に
誤操作を指摘し、その2秒後にゴー・レバーの解
除を命じた。

●11:15:17 には、GPWS(地上接近警報装置)の
 モード5警報音「GLIDE SLOPE」が1回作動

04:
ゴー・レバー誤操作から13秒後(11:14:18)。
気圧高度1,040ft(317m)の位置でオートパイロ
ットがNo.2そしてNo.1とほぼ同時にエンゲージ
(使用)され、その後約30秒間使用された。
この時、機長または副操縦士によるオートパイ
ロットを使用する旨の意思表示、あるいは呼称
が行われた明確な記録はCVR(Cockpit Voice
Recorder)にない。
また、オートパイロットの使用開始から約18秒の
間に、THSの角度は-5.3°から機首上げ方向限
界に近い-12.3°まで徐々に大きくなり、その後
53秒間、引き続き-12.3°のままとなっていた。

05:
オートパイロットはTHSを機首上げ方向に作動
させるが、副操縦士は操縦桿を押すことによっ
機首下げ動作を行った。

※THS(Trimmable Horizontal Stabilizer) に
  ついては、前回の記事で触れています。



こうしてオートパイロットと副操縦士の動きが競
合し、"アウト・オブ・トリム"と呼ばれる操舵系が
不釣り合いな状態を進展させた。

この間、副操縦士はさらに推力を下げ続けると
共に操縦桿を押すことでオートパイロットによる
THSの機首上げ動作を上回ることができたが、
同時にアウト・オブ・トリム状態がマスキング
された。

06:
ゴー・レバー誤操作から15秒後(11:14:20)。
副操縦士は操縦桿に加える力を低減する電
動ピッチトリムコントロールスイッチの使用を
試みたが、THSのピッチトリムコントロールは
オートパイロット操作中に抑制されるので、ス
イッチによる効果を得ることができなかった。

●11:15:25 には、失速警報音が約2秒間作動

07:
ゴー・レバー誤操作から29秒後(11:14:34)。
再度ピッチトリムコントロールスイッチの使用を
試みたと思われる音がCVR(Cockpit Voice Re
corder)に記録されているが、ゴー・レバー誤
作動から15秒後(11:14:20)に行った時と同じ
理由で効果が得られなかった。

08:
ゴー・レバー誤操作から44秒後(11:14:49)。
(オートパイロットのエンゲージから31秒後)、
機体が高度700ft(213.4m)を過ぎた辺りで、
副操縦士によってオートパイロットがディス
エンゲージ(解放)された。



09:
ゴー・レバー誤操作から46秒後(11:14:51)。
副操縦士は「教官、やっぱり押し下げられま
せん、ええ」と、機長へ操縦桿を押して機首
下げに転じることができない旨を報告した。

10:
ゴー・レバー誤操作から52秒後(11:14:57)。
THSにオートパイロットよる機首上げ角度が残
ったままになっていたことから迎え角が増加。
このため、機体の失速を自動的に防止する
アルファフロア機能が作動することによって
推力が増加し、更に機首上げ状態となった。

※迎え角(Angle of Attack)とは、翼の前後
 を真っ直ぐに結ぶ仮想的な線(Chord Line)
 と翼に当たる風(Relative Wind)の間にで
 きる角度のことで、揚力を司る重要なもの
 です。迎え角が大きすぎて限界を超えると
 翼の上面から空気が剥離し、機体は失速
 してしまいます。



ちなみに、失速を防止するアルファフロアとは具体的
にどのようなものなのだろう?と調べてみましたが、
日本の裁判所が公開している判例にある次の内容
が最も分かりやすいと思います。

------------------------------------------------------------
本件事故機には、アルファフロア(ALPHA FLOOR)と
呼ばれる安全装置が備え付けられている。これは、
低い対気速度が感知された場合に、オートスロット
ルが最大出力を命令し、失速を防止する機能である。
(P.6 "e 安全装置"より引用)
------------------------------------------------------------

11:
ゴー・レバー誤操作から57秒後(11:15:02)。
副操縦士が、機長に「教官、THROTTLEが
またLATCHされました。」と報告した。

12:
ゴー・レバー誤操作から58秒後(11:15:03)。
機長が「OK、私がやる、私がやる、私がやる」
と副操縦士へ操縦を交代する旨を告げた。
操縦輪を一杯に押し、かつスラスト・レバーを
引いたにもかかわらずなおも機首上げの傾
向が続いた。

 











13:
ゴー・レバー誤操作から59秒後(11:15:04)。
機体は気圧高度500ft(152.4m)で降下から
上昇に転じた。

14:
ゴー・レバー誤操作から1分3秒後(11:15:08)。
137kt(約253.7 km/h)であった機体の速度が
減少し始める。
この時点のCVR(Cockpit Voice Recorder)
記録には操縦輪を一杯に押し、かつスラスト
を絞ったにも関わらず、なお機首上げの傾向
が止まらないことに対する疑問の言葉と考え
られる「一体どうなってるんだ、これは?」とい
う機長の音声が記録されている。

15:
ゴー・レバー誤操作から1分6秒後(11:15:11)。
機長は一旦絞ったスラストをフル・スラストまで
増加させ、「GO LEVER」と呼称した直後、機体は
急上昇を始めた。
CVR(Cockpit Voice Recorder)には機長が操縦
輪を一杯に押してスラスト・レバーを引いてもなお
機体が操作に反応せず、ピッチ角が増加を続け
る動きに対して言った疑問の言葉と考えられる
「ちくしょう、どうしてこうなるんだ?」という音声が
記録されている。

16:
ゴー・レバー誤操作から1分9秒後(11:15:14)。
副操縦士が名古屋タワーにゴーアラウンドを通
報し、名古屋タワーはこれを了解。
(FAAのアニメーションでは Captain calls Go
Around. と吹き出しが付いていますが、報告書
96-5-B1816-01 P.6では副操縦士による通報が
行われたとしており、同 96-5-B1816-05 P.243
にあるCVR記録でも、副操縦士のNAGOYA TO
WER, DYNASTY GOING AROUND. という交信が
記載されています)



ゴーアラウンドよる推力の増加は、より急激な
上昇姿勢を招き、迎え角が増加し続けた。
この間、機長は極端なミストリミング(または
機首上げ)状態に気づかずにピッチトリムを操
作しており、THSへの機首上げ命令はわずか
に減少した。

17:
機体は急上昇し、迎え角も急速に増加。
対気速度(air speed)も失速に向け34kt
(62.968km/h)に減少し最大上昇角度53°、
最大高度1730ft(527.3m)に達した。
CVR(Cockpit Voice Recorder)には、
11:15:21 時点で機長の「エッ、これじゃ
失速するぞ」という声が記録されている。



18:
ゴー・レバー誤操作から1分21秒後(11:15:26)。
機体のピッチ角は最大の52.6°に達した。

19:
ゴー・レバー誤操作から1分26秒後(11:15:31)。
機体は気圧高度1,730ft(電波高度約1,790ft)
に達した後、機首下げ姿勢となって急降下を
始めた。



●11:15:37 には、GPWS(地上接近警報装置)の
 モード2警報音「TERRAIN TERRAIN」が1回作動
 その後 11:15:40 から墜落まで失速警報音が
 作動

20:
ゴー・レバー誤操作から1分40秒後(11:15:45)。
機体はそのまま名古屋空港34番滑走路の北東
に墜落した。




こうして見ると、パイロットがA300に搭載していた
自動操縦システムと自身の行った操縦の間で大
混乱を来していたことが伺えますが、これについて
書籍の中では、自動操縦システムがいかにパイロ
ットの動作と相反するものであったかが語られてい
ます。


------------------------------------------------------------
急激な機首上げが発生すると、パイロットは
誰でも操縦桿を押さえようとする。航空会社
のパイロットは、小型のプロペラ機から操縦
訓練を始め、ターボプロップや、B737型機な
どの小型旅客機の経験を経て中型、大型機
へと進んでゆく。そしてこの操縦桿を動かす
動作はこの間の長い反復訓練で自然に身に
ついたもので、パイロットのいわば習性になっ
ている。

しかし、エアバス社は急激な機首上げが起こ
っても操縦桿には手を触れず、別のスイッチ
でこれを修正させるコンセプトでA300の自動
操縦システムを設計したのである。これはパ
イロットに大きな意識の変革と訓練を要求す
るものだ。その危険性をマニュアルの片隅に
小さく書いて済むものではない。

私の知っている国内のA300のパイロットは皆、
中華航空の事故後に初めてマニュアルを読み
返して、警告の存在とその意味がわかったと
いった。日本の事故調査委員会がその点を指
摘したのも、的を射たものだった。

第一部 パイロットのヒューマン・エラー
航空機メーカーの設計思想に異議あり
(P.101)より
------------------------------------------------------------


次回は、このマニュアルや自動操縦システムに
ついて触れてみたいと思います。


■関連リンク
FAST magazine issue 20(PDFファイル)
Airbus


What's an "Alpha-Floor"?
PPRuNe Forums

2013-11-09

人間工学に反したパイロット不在の設計-01

次に、パイロットの習性と航空機メーカーの設計思想
のギャップによって引き起こされたエラーについて触
れてみたいと思います。

●パイロットの習性によるもの
(3:人間工学に反したパイロット不在の設計)

【実際の事例】 中華航空140便墜落事故


機長が語るヒューマン・エラーの真実(以後"書籍"と
記載)の中では、中華航空140便墜落事故をハイテ
ク機の典型的な事故として紹介していますね。

事故の詳細については、運輸安全委員会(旧:運輸
省航空事故調査委員会)による調査報告書(PDFファ
イル:以後一部を除き"報告書"と記載)を参照すること
もできますが、FAA(米連邦航空局)が公開している
"Lessons Learned From Transport Airplane Accide
nts"というサイト内で閲覧できるアニメーションを見ると、
いかに凄まじい挙動で事故に至ったかが良く分かり
ます。

まず、この事故について書籍の中では次のような
記述があります。


------------------------------------------------------------
この事故は起こるべくして起こったといえる。
それは第一に、ゴー・レバーの位置とその形状
からパイロットがスラスト・レバーに手を置いた場
合、ちょっとしたことで意に反しゴーアラウンド
モードに容易に入る可能性があるのを知ってい
て放置していたこと。

第二に、パイロットが急激な機首上げを修正し
ようと操縦桿を押すと、逆にスタビライザーが
いっそう機首上げ方向に作動するという、人間
工学の常識に反した機構を改善しなかったこと
だ。このことから、同じような事故がいつどこで
起こっても不思議ではない状況であった。

第一部 パイロットのヒューマン・エラー
航空機メーカーの設計思想に異議あり
(P.97-98)より
------------------------------------------------------------


ゴー・レバーは、スラスト・レバー(クルマで言うアクセ
ルのようなもの)と呼ばれる装置と共に取り付けられ
ており、このレバーを入れるとエンジンを全開にする
と同時に機首を上げて急上昇させる仕組みになって
いますが、本来は着陸時等で何らかの不都合が生
じた際に使うものです。

では、ゴー・レバーが実際どんな形になっていて、ど
れだけ誤操作が生じやすいものなのか?ということ
で報告書を読んでみると、確かにこれは何かの拍子
に誤って操作しかねない位置にあるな...という印象を
受けます。


写真51 分割したスラスト・レバー及び
     ゴー・レバーとの位置関係
(報告書 96-5-B1816-08、P.163より)

実際、報告書 96-5-B1816-02 P.51にも"同型機のゴ
ー・レバーは、スラスト・レバーのノブの下方に位置し
ており、また、その作動方向が、スラスト・レバーを引
く方向、あるいはスラスト・レバーを握り締める指の動
く方向と同方向であったため、スラスト・レバーの通常
の操作中に、誤ってゴー・レバーを作動させる可能性
がある。"という記述がされています。

但し、緊急時利用というレバーの用途もあるので、文
字通りの脆弱性(ここでは対象となる物が持つ性質故
に生じる弱点という意味)を止む無く保持している感も
否めません。

また、"スタビライザー"とは水平安定板のことですが、
FAAによるアニメーションや運輸安全委員会の調査報
告書ではTHS(Trimmable Horizontal Stabilizerの略)
と記しています。


操縦翼面図
(報告書 96-5-B1816-05 P.120より)

飛行機の挙動を理解する際には、Yaw(ヨー:鉛直軸
周りの回転)、Pitch(ピッチ:機首の上げ下げ)、Roll
(ロール)という3つの軸が基礎となりますが、下記の
動画でエレベーターがPitchに関わることが分かります
ね。事故が発生したA300では、これに加えてTHSも作
動していたことになります。




また、3軸については、FAAが公開しているPilot's Hand
book of Aeronautical Knowledge(PHAK)
というPDF版で
公開しているテキストのChapter 05内にある図でも知る
事ができます。

PHAK Chapter 5:Figure 5-4より


中華航空の事故では、特にPitchを扱う際における
パイロットの動きと自動操縦の競合が問題となるの
ですが、次回はどのような経緯で事故が発生したか、
FAAのアニメーションについている解説等を基に追っ
てみましょう。


■関連リンク
中華航空140便墜落事故の概要
運輸安全委員会


中華航空機墜落事故
コンピュータ・クライシス


航空事故調査報告書 96-5 平成8年7月19日公表
Aircraft Accident in JAPAN


名古屋空港で中華航空140便エアバスA300-600Rが着陸に失敗炎上
失敗知識データベース


China Airlines Flight 140
Wikipedia, the free encyclopedia


China Airlines Flight 140 Accident Animation
FAA - Lessons Learned


Lessons Learned
Federal Aviation Administration


着陸 - Wikipedia

計器着陸装置 - Wikipedia

ILSアプローチ
航空実用事典


連邦航空局 - Wikipedia

昇降舵 - Wikipedia

Prevailing Cultural / Organizational Factors
FAA - Lessons Learned


Trimmable Horizontal Stabiliser
SKYbrary

2013-05-04

速度計の誤作動に対応できなかった事例


更新が遅くなりましたが、続けたいと思います。

●パイロットの習性によるもの
(2:速度計の誤作動に対応できないことによる事故)

【実際の事例】
バージェン航空301便墜落事故
アエロペルー603便墜落事故

これらの事故は、メーデー!:航空機事故の真実と真相
という番組でも取り上げられていますね。

シーズン5 THE PLANE THAT WOULDN'T TALK
(バージェン航空301便墜落事故)


シーズン1 FLYING BLIND
(アエロペルー603便墜落事故)


飛行機の速度計は、英語で"Air Speed Indicator"と
呼ばれますが、ここでわざわざ英語による表記を出し
たのには理由があります。

ご存知の方もおられると思いますが、飛行機で"速度"
という言葉が出てきた場合、まずは次のような種類の
速度が出てきます。

●対気速度(Air Speed)
飛行機が受けている風圧を示す速度。
ここでは、まだ「?」と思うかもしれませんが、
とりあえず、次に進みましょう。

●対地速度(Ground Speed)
空では絶えず風が吹いていますから、飛行機が
エンジンの推力によって受ける風の速さ(つまり
対気速度)とイコールで移動できるとは限りません。

追い風なら機体は風に乗って速く移動できますし、
逆に向かい風なら風に押し戻される状態に抵抗
しながら進むので遅くなります。

空港のWebサイトなどで得られる飛行機の到着
時間は何をもって示されるかというと、この対地
速度というわけです。

「じゃあ、単純に移動時間が分かる対地速度だけ分
かっていればいいじゃないか」という声があるかもし
れませんね。でも、これはあくまで飛行機を輸送手
段として捉えた利用者側の話。

飛行機は一定以上の速度を超える風を翼へ当てる
事によって揚力を作り出して飛んでいるわけですか
ら、対気速度(Air Speed)という指標は操縦を行う
上で非常に大切な要素になります。速度計の英語
表記を持ち出したのは、このためです。

ちなみに著者は、速度がパイロットにとっていかに
大きなものか、次のように書かれています。


------------------------------------------------------------
パイロットにとって、速度は何にも増して優先
しなければならない。遅いと失速、速いと空中
分解というまさに命に直結するもので、そこか
ら速度第一主義に陥る運命的なものがある。

第一部 パイロットのヒューマン・エラー
(P.82)より
------------------------------------------------------------


では、それだけ大切な"速度(ここでは対気速度)"を
指し示す仕組みがどうなっているかというと、"Pitot
Static System"と呼ばれるものが関わっています。

Wikipediaで"Pitot-static system"として掲載されて
いる画像を引用して説明すると、Pitot Tube と書い
てある部分が飛行機の機種に応じた箇所に取り付
けられ、ここから入った空気が、機体側面に付いて
いる Static Port と呼ばれる箇所から抜けていく構
造になっているんですね。

また、Pitot Tube または Static Port どちらかの穴が
詰まってしまうと速度計が正常に機能しない状態に
陥ります。

バージェン航空の事故では、ドロバチが Pitot Tube
内部に巣を作って詰まらせていたことによって速度
計の動作異常が発生したと見られているそうですが、
個人的には、機長が離陸滑走中に自身と副操縦士
の各座席に装備されている速度計の指示が不一致
を示していることに気づきながら、離陸後にフライトを
継続したのは一体なぜだったのだろうという疑問が
あります。

例えばネットワーク機器を冗長構成で設置するという
事はそれだけ重要なシステムだからであって、設置中
に片側の系統が故障したと見られた場合にそのまま
作業を続行することはないだろうし、ましてや本番環境
なら...と思うのですが、これと同様に重要な計器の一つ
である速度計が異常な状態を保持したまま離陸でき、
かつ予備計器があったとしても、万一を考慮して空港
へ戻る事ができたのならば最悪の事態に至らず済ん
だのではないかとも思ってしまうわけです。

もちろん、航空機の操縦訓練には計器が故障した際に
備えるものがありますし、著者が勤務されている会社で
はバージェン航空やアエロペルーによる事故後、シミュ
レータを用いて速度計の故障をいち早く発見し、安全に
着陸するためのプログラムが取り入れられているそうで
すが、考えるほどにスッキリしない内容に感じます。


■関連リンク
Pitot Static Instruments ピトー静圧系統
CFI Japan

航空軍事用語辞典++ 指示対気速度

航空軍事用語辞典++ 較正対気速度

航空軍事用語辞典++ 真対気速度

「ピトー管」原因の墜落、過去にも
ニューズウィーク日本語版
2009年6月11日(木)17時00分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

旅客機のコックピット - Wikipedia

6/6 (木) Partial panel

速度計などなくても飛行機は安全に飛ばせます。
目指せ!エアラインパイロット
2007/10/8(月) 午前 11:13

2012-03-20

思い込みによる機器の誤操作と、機器の設計思想によるエラーの助長

ここまでの2回で、「人間の動物的本能と能力限界
から発生する」パイロットのエラーについてご紹介
して来ました。

本項からは、下記を紐解いていきたいと思います。

●パイロットの習性によるもの
(1:思い込みによる機器の誤操作と機器の設計思想)

【実際の事例】
エールアンテール148便墜落事故

書籍で紹介されているこの事故では、ハイテク機の象
徴とも言えそうな"グラスコクピット"と呼ばれる計器の
形態が事故を引き起こした要因の一つとされています。

具体的には、着陸時にFCU(フライトコントロールユニッ
ト)と呼ばれる機器のモード設定を誤った状態にセットし
た上で、パネルに表示されている数値の単位を正しい
表示であると思い込んだ状態でモード確認を行わない
まま、機体を最終進入コースへ乗せることに集中し過
ぎていたというものです。

着陸時は、FCUのモードに加えて機体の速度や高度、
降下率などもチェックが必要でしたが、こうした情報の
確認もしておらず、"一点集中"という飛行機の世界で
は最も忌み嫌われる状態になっていた事が伺えます
(個人的には、着陸の為にエンジンを絞っているにも
かかわらず機体速度が増加したという、予想外の状
態に対する"焦り"が一点集中に至った経緯にあるの
ではないかとも考えています)。

このため、通常であれば毎分800フィート(約240メート
ル)で降下するところを、その4倍以上にもなる3,300フ
ィート(990メートル)で急降下し、最終的に山へ激突す
る事故に至っています。

そして著者は、FCUのモード設定を誤ったまま墜落した
原因として、従来のアナログ式の機器との間における"
見た目や使い方の相違"が「思い込み」を助長していた
可能性について詳しく触れています。


------------------------------------------------------------
従来の自動操縦装置なら、モードごとに一つ
一つのスイッチがあり、スイッチの位置でどの
モードが入っているかを確認できた。

これに対して、ハイテク機はスイッチを兼用
するため、まずスイッチでモードを選択し、
小窓にそれぞれのモードに対応した数字を
入力する必要がある。両方を正しく操作して
初めてモードオペレーションが機能する。

小窓を兼用し、そこに表示される数字の字体
や大きさも同じなので、パイロットは数字の
単位も正確に読み取らないと、誤っていた場
合には飛行機がとんでもない動きをすること
もある。つまり、視覚の認知だけでなく、大脳
での情報の確認が必要とされるのである。

あるモードを使ったつもりでも、それが自分の
意図と違っていた場合、これまでならパイロッ
トは何回もパネル(計器盤)を見る習慣がある
から、スイッチの位置でミスを発見できた。

しかし、ハイテク機のグラス・コクピットでは、
モードスイッチの状態と数字の単位まで大
脳で再確認しなければならない。

小窓の小さな数字はもともと読み取りにくく、
夜間ではさらに困難になるので、再確認を
つい省略してしまうことになる。最初の操作
は間違っていないはず、という錯誤が最後
まで続く危険性がここにある。

第一部 パイロットのヒューマン・エラー
(P.67~68)より
------------------------------------------------------------


例えば、Wikipediaで「旅客機のコックピット」として
掲載されている記事
では、グラスコクピット化される
前のB-737における写真を見ることができますが、
いかにもメカニズム然とした印象の光景を見ること
ができます。

しかし、同じ記事に掲載されているB-737-800の写
真を見ると、随分とすっきりした印象に見えるので
はないでしょうか。

こちらのリンク先で、A320(後半の型番は不明)の
シミュレータ画像を見ることもできますが、やはり良
く言えばすっきりした印象、悪く取ればのっぺりとし
た感じに見えます。

計器の外観はシンプルになり、定常操作が人手を介
さず自動的になったけれど、人間側での認知や操作
プロセスに要する手数が増えて操作上の錯誤が発
生し易くなったというのは皮肉なものです。

また、「思い込み」は右脳と左脳の共同作業の失敗
によって起こるとされており、この事故では"左脳でF
CUのモードスイッチを所望のモードと数値にセットし、
右脳で機体の降下率を感覚で確認することが必要
な場面で、夜間や雲中を飛行していたという条件で
思っていたより急降下になっていた状況を確認でき
ていなかったことになる"とも解説しています。

疲労やストレスといった心身の調子がベストでない
時は特にこうした錯誤を引き起こしやすいのではと
も思いますが、いつも目に見えて判りやすいもので
はない点が厄介です。

では、この様な錯誤への対抗策はあるのでしょうか?

著者は、右脳のイメージを左脳で確認するための基本
動作として指差し呼称の敢行を挙げています。

そして、このブログでも先に触れたことがあるCRMにつ
いて"左脳で得た情報(リソース)を活用して右脳で正
しいイメージを描く能力を養成するためのもの"といった
位置づけを示した上で、その限界についても"CRMは
操縦しているパイロットに対し、他のパイロットが適切
な情報を与えられるという前提でしか効果はない"とも
言及しています。

個人的には、ここに自身がFAAプライベートパイロット
のライセンスを取得する際に学んだ、"IMSAFEチェック
リスト"を付け加えておきたいですね。

I = Illness
(病気にかかっていたり、自覚症状があるか?)

M = Medication
(薬を服用しているか?)

S = Stress
(過剰なストレスを感じているか?)

A = Alcohol
(アルコール飲料を摂取しているか?)

F = Fatigue
(疲れているか?)

E = Eating
(食事をきちんと摂取しているか?)

最後のEは、以前自分が学んだ際は"Emotion(感情的
な高ぶりがないか?)"だったのですが、"Stress"に統
合されたのだそうです。

心身を日々快適な状態にしておくことはつい疎かになり
がちかもしれませんが、緻密さやミステイクをした際の危
険度が大きくなるほど、コンディショニングという地味な部
分の重要性が指数関数的に増すように思います。


■関連リンク
グラスコックピット - Wikipedia

グラスコックピットの落とし穴
ダイエイ インターナショナル株式会社
2010/04/09


アメリカン航空ボーイングの墜落(PDFファイル)
失敗知識データベース-失敗百選


リスクを見つけて制御する(PDFファイル)
TALKSAFE2006 特別講演
筑波大学大学院 教授
稲垣 敏之


IMSAFE - Wikipedia, the free encyclopedia

2011-11-07

生理的脆弱性によって引き起こされた墜落事故の事例

前回に続き、身体能力としてより分かりやすい症状に
よって引き起こされたエラーについてです。

●人間の動物的本能と能力限界から発生するもの
(2:空間識失調と低酸素症による事故)

【実際の事例】
※空間識失調によるもの
ガルフ・エアー072便墜落事故
USエアー1016便墜落事故
ニュージーランド航空901便エレバス山墜落事故

※低酸素症によるもの
ヘリオス航空522便墜落事故
日本航空123便墜落事故

まず本題に入る前に、FAA(米連邦航空局)が自家用
として認可している、いわゆるPrivate Pilotの学科試験
のFitness for Flightと呼ばれるパートで挙げられてい
る、パイロットのエラーにつながる身体症状をご紹介し
ます。

◆Hypoxia(低酸素症)
呼吸量の増加やめまい、頭痛、冷や汗、爪や
唇の紫色化、視野狭窄、眠気、幸福感、意識
の喪失

【対処法】
降下するか、補助酸素を使う。

◆Hyper ventilation(過呼吸)
飛行条件の悪化等による感情(高ぶりや不安、
恐怖)などによって引き起こされ、高高度を飛
行する際に使用する補助酸素を使う場合にも
なり易い。めまいや足・指先の痺れ、寒気や
眠気、心拍数の増加や意識の喪失が主な症
状となる。

【対処法】
ゆっくり呼吸する
大声で話す
袋を口元に当てて呼吸する

◆Carbon monoxide(一酸化炭素中毒)
低酸素症の一種で、ヒーターの故障などでコ
クピット内に入り込んだ一酸化炭素が血液中
のヘモグロビンと結びついてしまい、酸素の
取り込みを阻害してしまう。症状には低酸素
症にみられるものに加えて筋力の低下が挙
げられる。単なる低酸素症と異なり、高度を
下げるなどの措置を行っても即座に回復しな
い為、よりやっかいなものとなる。

【対処法】
ヒータースイッチを切る
換気口を開ける

◆Spatial Disorientation(空間識失調)
ニュース等で言われる"バーティゴ"という言葉
と同義で、パイロットが平衝感覚を失って機体
がどのような状態になっているか正確に把握
する事ができなくなってしまう。

ちょっと古いですが、手元にあるTEST PREP P
RIVATE PILOT 08
では、5-21(この問題集は、
パートごとにページ数が区切られています)に
問題3851として下記の様な記述があります。



"A state of temporary confusion resulting
from misleading information being sent to
the brain by various sensory organs is de
fined as"
(各感覚器官から脳へ誤った情報が送られた
結果として引き起こされる一時的な混乱状態
はどのように定義されているか)

当然ながら、回答は"Spatial Disorientation"
と なります。

【対処法】
計器の指示を信頼する

ちなみに、"vertigo"という言葉を含みつつ全く異なる
症状を指し示す用語として、"Flicker vertigo(フリッカ
ーバーティゴ)"と呼ばれるものがあります。

こちらは日中にプロペラ機で太陽に向かって飛んでい
る時、ちょうど古い映写機の様な具合で目の前がチラ
チラする状態が続くことによって発生する、けいれんや
ひきつけ、吐き気や意識障害の事です。

子供達がテレビアニメを観ていて病院に担ぎ込まれた
いわゆる「ポケモン事件」と呼ばれた状態が飛行中に
起こるものと言えば分かりやすいでしょうか。だから座
学では、「太陽に向かって飛んではダメ!」と教わって
ましたね。

さて、ここからが本題となります。
ガルフ・エアー、USエアー、ニュージーランド航空の例
はそれぞれ空間識失調に起因する事故で、こうした原
因として、一般的に視程が悪い状態や夜間での飛行、
地上の目標物などが参照できない海上での飛行中に
空と水平線の境を見失ったりすることが良く言われま
すが、著者は「地球の表面に対し、自分の位置を正し
く認識することができない状態」と定義しています。

また、下記の説明はコクピットにおける視点・感覚を
とても簡潔かつ明瞭に述べています。

------------------------------------------------------------
パイロットは重力の方向が変わったために
起こる前後方向の重力成分と、飛行機の加
速との区別がつかない弱点を持っており、
飛行計器への注意を怠ると誰でもがこの
ような状態に陥るのである。

第一部 パイロットのヒューマン・エラー
(P.49)より
------------------------------------------------------------

要するに、目隠し状態で歩けば壁や置いてある物へ
体をぶつけたり転ぶようなことになりますが、これに
宙吊り状態が加わるようなもので、その恐ろしさは
言うまでもありません。

さらに、ニュージーランド航空による事故では「ホワイ
トアウト現象」と呼ばれる現象が空間識失調を引き起
こしたことについても触れており、著者はこの発生メ
カニズムや影響についても詳しく説明しています。

------------------------------------------------------------
まず雲を透過してきた光の大部分が雪面で
反射され、この反射光がまた雲の下面で反
射されるというプロセスが繰り返される。

この反射、伝播の過程で、光は小さな水滴
を透過し、あるいはアイスクリスタルを透過
し、雪面の氷晶であらゆる方向に反射され、
ほぼ完全な散乱光となり、白い影を生じな
い明かりとなる。

こうしてホワイトアウトが発生すると、パイ
ロットにとってはまず地平線の感覚が失
われる。高度の判定ができないので、着
陸時には高すぎるところでフレアー(引き
起こし)を開始して失速するか、あるいは
地面に向かって突入することになる。

離陸時は、たとえば樹木などを参考にし
て地平線をつかんでいるが、上昇後、旋
回を始めてその視界にあった参考物体が
視界外に出てしまうと、とたんに高度知覚
が失われ、方向感覚も狂ってしまうことに
なる。

第一部 パイロットのヒューマン・エラー
(P.55-56)より
------------------------------------------------------------

また、空間識失調への対策として、次の3つが提言
されています。

①計器に比重を置いて操縦する
 夜間や計器飛行を行うような気象状態の時は、
 信頼に足る航空機の姿勢に関する情報は計器
 によって得られることを基本ポリシーとして外界
 より計器に重きを置いた操縦をすること

②最低安全高度以下には降下しない
 ホワイトアウトの危険性があるときは、当該地
 域の最低安全高度(チャートと呼ばれる航空
 用地図に書いてある)以下に降下せず、電波
 高度計などの計器を中心に操縦すること

③任務の分担を決めておく
 一人が外界を見ているときは、もう片方のパ
 イロットは必ず計器をモニターするよう任務の
 分担を取り決めておき、航空機が異常な姿勢
 になったときにはすぐに操縦を交代できるよう
 にしておくこと

低酸素症によるものとしては、ヘリオス航空や日航の
例が挙げられていますが、何より怖いのは、緩やかに
酸素が失われていった場合にその状態が自覚できな
いまま危険な状態に陥ること。

書籍の中では、ヘリオス航空の例は空調システムの
トラブルによる気圧と酸素量の減少によってパイロット
が意識を失ったと見るのが妥当とされています。

また、パイロットは急減圧に対する訓練は行っているも
のの、知らぬ間にゆっくりと減圧が進行した際のトラブ
ルを想定した訓練が行われていなかったり、客席では
減圧が発生すると酸素マスクが自動的に飛び出してく
るのにコクピットではそれが行われないことにも触れて
います。

そして日航機の例では、訓練で想定されていない緩慢
な減圧状態だったために、客席で酸素マスクが出てい
るにも関わらずパイロットは最後までマスクを装着せず、
失神せずとも操縦に重大な影響を及ぼしたという、前回
触れたRTOの訓練における問題と同様、訓練で想定し
ている対応範囲の狭さゆえに生じる"例外への脆弱さ"
が表出した状態が書かれており、適切な訓練さえ行わ
れていれば乗員乗客が助かったかもしれない可能性に
思いを至らせると、犠牲者の無念さは察するに余りある
ものがあります。

低酸素症対策としての提言は次の5つです。

①急減圧に対する訓練以外に、緩やかな減圧
 への訓練を追加し対処法を身に付ける

②減圧を速やかに知らせる警報装置の改善

③少しでも減圧の兆候が出たら酸素マスクを
 着用する操作手順の確立

④客席での酸素マスクの自動落下に合わせて
 操縦席でも同様となるシステムへの改修

⑤パイロットが乗客より先に意識を失うこと
 がないように、メーカーがシステムの設計
 変更を行うこと(その責任があること)

特に、実際の運航における安全性を損ねる状態を改善
するメーカーの責任については飛行機に限らず、あらゆ
る機械に通じるものと思います。


■関連リンク
空間識失調 - Wikipedia

財団法人航空医学研究センター

ホワイトアウト - Wikipedia

電波高度計 - Wikipedia

2011-11-02

トラブルを抱えて離陸上昇できない事例

今回から、パイロットのヒューマン・エラーとして3つ
に分類されている各カテゴリーの中で、最初に取
り上げられているものを2回に分けてご紹介します。


●人間の動物的本能と能力限界から発生するもの
(1:トラブルを抱えて離陸上昇できない)

【実際の事例】
福岡空港ガルーダ航空機離陸事故
トランスワールド航空843便大破事故

飛行機が離陸する際、当然ながら重力に打ち勝っ
て機体を浮揚させるため、滑走路をどんどん加速し
ながら走行します。

この時に何らかのトラブルが発生した場合に離陸
を継続するか、それとも中止するか(RTO:Reject
Take Off)の決断を行う際、重要な指標となる速
度があって、"V1(ブイワン)"と呼ばれています。

しかし、この用語を訳した日本語に問題があるた
め、解釈に誤解が生じているのだそうです。

具体的には、「離陸決心速度」と訳されてしまって
いるため、離陸継続(GO)か中止(RTO)の決断を
「瞬時に」行う速度といった誤解が蔓延していると
の事。

じゃあ、正しいV1の定義って何?ということになり
ますが、かいつまんでしまうと「パイロットが最初
に減速動作を開始する速度」。

つまり決断ではなく、減速を「開始」していなければ
ならない時点なのですが、実際にはV1を超えてか
らRTOに入ってしまうために滑走路をオーバーラン
し、事故に至るというのです。

では、V1の時点で減速していなければならないに
もかかわらず事故に至るのは何故かという疑問に
ついてはこう解説しています。

------------------------------------------------------------
結論からいうと、人間はもともと地に足を置く動物で
あり、トラブルを抱えながら重力に反してまで空に向
かうことは本能に反する行為であり、仮に離陸滑走
中にトラブルが発生したら、地上でトラブルを解消し
ようとするのである。

第一部 パイロットのヒューマン・エラー
(P.31)より
------------------------------------------------------------

確かに、地面から浮き上がろう、または浮き上がっ
た状態で何らかのトラブルが起きたとしたら、その
まま離陸するのは「落ちたら終わり」といった相当
な恐怖を伴うと思います。

しかし興味深いことに、ボーイング社の実験では、
離陸中のエンジン故障で機長が離陸を継続した
場合に墜落や事故に至ったケースが皆無であり、
かつ西側諸国で製造されたジェット輸送機で199
0年までの30年間でRTOによって発生した74件の
事故やインシデント(異常運航)の中で、離陸を継
続して事故になった例も同じく皆無。

ところが、航空会社ではエンジン故障を想定した訓
練以外は行っておらず、なぜならパイロットがライセ
ンスを取得したり定期訓練を行う際に航空局が求め
る資格要件はエンジン故障のみだから。

このためか、ボーイング社が自社の機長24人と航空
会社の機長24人(合計:48人)を対象に1991年4月
に行った、B737型機のシミュレータによる実験結果
では、3分の1がタイヤ破裂による振動だけでRTOを
行い、滑走路上で停止できたのはわずか3名。しか
もオーバーランまでギリギリの状態で停止となって
います。

しかも、航空会社のマニュアルでは「いったん離陸
滑走を開始した後、マスターウォーニングライトの点
灯という単一の原因からRTOすることは勧められな
い」と定めているにもかかわらず、RTOしたケースも
あったとのこと。

マスターウォーニングライトとは、コクピットの見易
い所に配置されたもので、多くの警告灯のうち一
つでも作動した場合に点灯し、パイロットはこれに
よってどの警告灯が作動したかを確認⇒適宜対応
を行うという、いわば警告の見落としを防ぐために
設けられたものです(ちなみに、クルマにもマスタ
ーウォーニングはあります)。

先ほどの"離陸を継続した場合に墜落や事故に至
ったケースが皆無"という事例を照らし合わせると、
用語の誤解が蔓延した上に、既存の訓練体系を
こなすだけでは、トラブル発生時にリスキーな行動
を本能的に取ってしまい易い事が良く分かります。

そこで著者は、離陸中の事故を防ぐ具体策として
次の3つを提言しています。

①人間の本能に打ち勝って離陸継続の強い意志を
  持てるよう、「ゴー・マインド(GO MIND)」のポリ
  シーを確立する。

②ヒューマン・エラーの原因である「瞬時の決断」
  をやめる。

  V1の正しい理解を再教育し、確実にV1の時点
  でRTOが始まるように余裕を持って決断を行う
  手順を再確認する。

③シミュレーター訓練の改善
  V1のかなり手前でもGO(離陸)する訓練を新た
  に導入し、RTOよりもGOする訓練の比率を増
  やす。

  離陸中のトラブルもエンジン故障だけでなく、
  失速警報の作動やタイヤのパンク、各種警報
  ランプの点灯を含めて実際の運航に近づける
  ようプログラムを改善する。


●ハリーアップ・リターン症候群
これは著者による造語で、一刻も早く空港に戻ろ
うとする、トラブルを抱えたまま離陸できない問題
と並んだパイロット固有の「悲しい性」と称されて
いるものです。

どちらも、地上に足をつけておきたい本能に起因
する点で互いに共通するものに思えます。

具体的な事例として、シミュレータによる緊急事態
の定期訓練や審査で、着陸滑走距離に余裕が無
くてもパイロットの技能をチェックするための規定内
に収まっていれば良しとしてしまうために、離陸直
後や上昇中に大きなトラブルに見舞われた際、クル
ーとのディスカッションや地上のアシスト、余裕を持
って着陸できる代替空港の選択などの解決策を採
らず、とにかく早く出発した空港に戻ろうと訓練通り
の行動をとってしまい、あわやオーバーランといった
危険に至った例を挙げています。

提言されている解決策は以下2つです。

①機内火災の場合以外では急いで元の空港に
 戻らないで、とりあえず飛び続けながら最善の
 方策をゆっくり時間をかけて考えること。
 航空会社はこのようなポリシーを確立すること。

②シミュレータと実機の違いを事ある毎に理解
 させる教育を行うこと

いずれも用語の誤解や訓練内容と現実の乖離とい
った前提に本能的な反応が結びつく事によって発
生するエラーであり、これらの前提を改善する事に
よって本能を克服しようということになります。

もしかすると、今では著者の提言が航空界に受け
入れられて訓練内容も変わっているかもしれませ
んし、そう願いたいですね。


■関連リンク
離陸決心速度 - Wikipedia

27.離陸速度
空の旅


機長が唱える呪文
サンデー毎日の記

2011-10-14

致命的なエラー

前回の記事では、ヒューマン・エラーによる事故を
防ぐためには、"決定的なエラーが いつ、どのよう
な状況で起こるのか、統計的・科学的に分析すれ
ば十分に予防できる"という著者の主張をご紹介
しました。

こうしたエラーの分類では、必ずといって良い位
「ハインリッヒの法則」が出て来るもので、僕自身、
情報セキュリティの学習をした初期の頃に触れた
覚えがあります。

この法則では、1件の死亡・重傷事故の背後には
29件の軽傷事故があり、その背景に300の無傷
事故(ヒヤリハット)が存在するとしています。

つまり、"機長が語るヒューマン・エラーの真実"
で語られている「致命的な」エラーとは、ハイン
リッヒの法則の中で、不幸にも頂点に位置する
事故を指していることになりますね。

そして、パイロットのヒューマン・エラーを次の3
つに分類し、致命的なエラーによる事故につい
て様々な事例を紹介しています。

●人間の動物的本能と能力限界から発生するもの

●パイロットの習性によるもの

●行き過ぎたコスト削減によるもの

次回は、これらの事例について、もう少し詳しく
見ていきたいと思います。


■関連リンク
ハインリッヒの法則 - Wikipedia