2010-06-02

Can silent sheeps slam the door in face of ISP?

先日、朝日新聞2010年5月30日付の記事に、ISP(プロバイダ)
がユーザの通信を解析し、各利用者の好みに応じて広告を配
信することを総務省が容認したという話題が出ていました。

そこで、総務省が公開している「利用者視点を踏まえたICTサ
ービスに係る諸問題に関する研究会 第二次提言(案)」にざっ
くり目を通してみると、"Ⅱ ライフログ活用サービスに関する検
討について"という箇所が、朝日新聞の記事と関連が深そう
です。

ちょっと長いので、提言の内容を3つほどのブロックに分けて
整理しておきたいと思います。

●記事の中で使っている用語について
提言の中で書かれている"ライフログ"とは、"蓄積された個人
の生活履歴"としており、これを利活用したものとして、以下
2つに整理しています。

①利用者の興味・嗜好にマッチした情報を提供するサービス
②統計情報を提供するサービス

このうち、①に含まれる"行動ターゲティング広告"が、プロバ
イダユーザの通信を解析して生み出されるサービスということ
ですね。

では、"行動ターゲティング広告"なるものは?というと提言の
中で以下のように定義しています。

"行動ターゲティング広告とは、蓄積されたインターネット上の
行動履歴(ウェブサイトの閲覧履歴や電子商取引サイト上での
購買履歴等)から利用者の興味・嗜好を分析して利用者を小
集団(クラスター)に分類し、クラスターごとに広告を出し分け
るサービスを指す。

なお、通常、広告媒体であるウェブサイトの管理者が、自ら
のウェブサイト上のスペースを、広告掲載スペースとして対
価と引き替えに提供する場合のみを「広告」と呼び、自らの
ウェブサイト上のスペースを自らの宣伝のために利用してい
る場合は、「レコメンド」と呼ぶ。"

●DPIに基づく広告配信について
ここで言っている、行動履歴を取得する手法として、従来はP
2Pネットワークによる通信を制限するのに利用されてきた"D
PI"(ディープ・パケット・インスペクション)なる技術の利用を
総務省が容認した・・・というのが、朝日新聞のトピックなの
ですが、当然ながらそんな事されたくないというユーザもいる
でしょう。

提言の中では、プロバイダがDPIを使った通信解析を行う事
について、ユーザの同意がない場合には正当性を持たない
旨を表記しています。

------------------------------------------------------------
ISP によるDPI 技術を活用した行動ターゲティング広告
の実施は、パフォーマンスの高い広告を配信することや、
そのために利用者の嗜好を把握することを目的としてお
り、ISPによる電気通信役務(電気通信設備を用いて利
用者をインターネットに接続させる役務)にとって、必ずし
も正当・必要なものとは言い難く、正当業務行為とみるこ
とは困難である

利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に
関する研究会 第二次提言(案) P.58 より
------------------------------------------------------------

●利用者の同意と拒否について
そして、提言の中では、プロバイダがDPI 技術を活用して行動
ターゲティング広告を配信するためにユーザから同意を得る際、
判断材料として、少なくとも以下を"容易に認識かつ理解できる
形で利用者に通知し、又は容易に知りうる状態に置くこと"とし
ています。

ア.取得の事実
イ.対象情報を取得する事業者の氏名又は名称
ウ.取得される情報の項目
エ.取得方法
オ.第三者提供の事実
カ.提供を受ける者の範囲
キ.提供される情報の項目
ク.利用目的
ケ.保存期間
コ.利用者関与の手段について、利用者に通知し、又は知り
  得る状態に置くことが望ましい

なおかつ、ユーザがこうしたサービスを望まない場合について、
"利用者に対して、容易に利用可能なオプトアウトの機会を提供
すること。"とも述べているのですが、今でもPCをセットアップす
るだけでも大変、ネットにつながっただけで万々歳という人は
少なくないはずです。

各プロバイダがこうしたサービスを事業に乗せるとして、通信の
秘密に基づいてブラックボックス化された処理の中でDPIによっ
て得られた情報を悪用された場合は追いかけようがないのでは
?という懸念が生じて来るのは至極自然な話に思えますね。

ましてや、先に述べたような安全なネット利用に対する知識や
慣れがより求められる層にあるユーザが、望まないサービスを
拒否できるか?知らないもの、説明されても理解が困難なもの
は拒否しようがないわけですから、ここにも大きく疑問が残りま
す。


■関連リンク
「ネット全履歴もとに広告」総務省容認 課題は流出対策
asahi.com(朝日新聞社)
2010年5月30日


[総務省関連]
利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会
総務省


利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会
第二次提言(案)
平成22年5月
総務省


利用者視点を踏まえたICT サービスに係る諸問題に関する研究会
第二次提言(案)への意見募集で寄せられたご意見について
総務省


[通信の秘密]
通信の秘密 - Wikipedia

電気通信事業関連4団体,通信の秘密に関するガイドラインを策定
IT Pro
2007/05/30


[オプトイン/オプトアウト]
オプトインとは 【opt-in】
意味/解説/説明/定義 : IT用語辞典


オプトイン/オプトアウトとは
オプトイン/オプトアウト とは - Networkキーワード
ITpro


[テクニカル]
オープンソースのディープパケットインスペクションエンジン「OpenDPI」が登場
SourceForge.JP Magazine
2009年09月10日 15:53


[P2P]
ぷららのWinny遮断は是か非か(前編)
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2006/04/25


ぷららのWinny遮断は是か非か(後編)
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2006/04/26


プロバイダはどうやってWinnyの通信を見つけるのですか
- Winny問題なんでもQ&A
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第8回 P2Pまわりの研究をやってきた人の独り言
国立大学法人 電気通信大学
情報ネットワークシステム学専攻 ネットワークアーキテクチャ学講座
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[市場調査]
パケットスニフティング:ディープパケットインスペクション(DPI)およびネットの
中立性
Packet Sniffing: Deep Packet Inspection and Net Neutrality

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