2013-11-09

人間工学に反したパイロット不在の設計-01

次に、パイロットの習性と航空機メーカーの設計思想
のギャップによって引き起こされたエラーについて触
れてみたいと思います。

●パイロットの習性によるもの
(3:人間工学に反したパイロット不在の設計)

【実際の事例】 中華航空140便墜落事故


機長が語るヒューマン・エラーの真実(以後"書籍"と
記載)の中では、中華航空140便墜落事故をハイテ
ク機の典型的な事故として紹介していますね。

事故の詳細については、運輸安全委員会(旧:運輸
省航空事故調査委員会)による調査報告書(PDFファ
イル:以後一部を除き"報告書"と記載)を参照すること
もできますが、FAA(米連邦航空局)が公開している
"Lessons Learned From Transport Airplane Accide
nts"というサイト内で閲覧できるアニメーションを見ると、
いかに凄まじい挙動で事故に至ったかが良く分かり
ます。

まず、この事故について書籍の中では次のような
記述があります。


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この事故は起こるべくして起こったといえる。
それは第一に、ゴー・レバーの位置とその形状
からパイロットがスラスト・レバーに手を置いた場
合、ちょっとしたことで意に反しゴーアラウンド
モードに容易に入る可能性があるのを知ってい
て放置していたこと。

第二に、パイロットが急激な機首上げを修正し
ようと操縦桿を押すと、逆にスタビライザーが
いっそう機首上げ方向に作動するという、人間
工学の常識に反した機構を改善しなかったこと
だ。このことから、同じような事故がいつどこで
起こっても不思議ではない状況であった。

第一部 パイロットのヒューマン・エラー
航空機メーカーの設計思想に異議あり
(P.97-98)より
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ゴー・レバーは、スラスト・レバー(クルマで言うアクセ
ルのようなもの)と呼ばれる装置と共に取り付けられ
ており、このレバーを入れるとエンジンを全開にする
と同時に機首を上げて急上昇させる仕組みになって
いますが、本来は着陸時等で何らかの不都合が生
じた際に使うものです。

では、ゴー・レバーが実際どんな形になっていて、ど
れだけ誤操作が生じやすいものなのか?ということ
で報告書を読んでみると、確かにこれは何かの拍子
に誤って操作しかねない位置にあるな...という印象を
受けます。


写真51 分割したスラスト・レバー及び
     ゴー・レバーとの位置関係
(報告書 96-5-B1816-08、P.163より)

実際、報告書 96-5-B1816-02 P.51にも"同型機のゴ
ー・レバーは、スラスト・レバーのノブの下方に位置し
ており、また、その作動方向が、スラスト・レバーを引
く方向、あるいはスラスト・レバーを握り締める指の動
く方向と同方向であったため、スラスト・レバーの通常
の操作中に、誤ってゴー・レバーを作動させる可能性
がある。"という記述がされています。

但し、緊急時利用というレバーの用途もあるので、文
字通りの脆弱性(ここでは対象となる物が持つ性質故
に生じる弱点という意味)を止む無く保持している感も
否めません。

また、"スタビライザー"とは水平安定板のことですが、
FAAによるアニメーションや運輸安全委員会の調査報
告書ではTHS(Trimmable Horizontal Stabilizerの略)
と記しています。


操縦翼面図
(報告書 96-5-B1816-05 P.120より)

飛行機の挙動を理解する際には、Yaw(ヨー:鉛直軸
周りの回転)、Pitch(ピッチ:機首の上げ下げ)、Roll
(ロール)という3つの軸が基礎となりますが、下記の
動画でエレベーターがPitchに関わることが分かります
ね。事故が発生したA300では、これに加えてTHSも作
動していたことになります。




また、3軸については、FAAが公開しているPilot's Hand
book of Aeronautical Knowledge(PHAK)
というPDF版で
公開しているテキストのChapter 05内にある図でも知る
事ができます。

PHAK Chapter 5:Figure 5-4より


中華航空の事故では、特にPitchを扱う際における
パイロットの動きと自動操縦の競合が問題となるの
ですが、次回はどのような経緯で事故が発生したか、
FAAのアニメーションについている解説等を基に追っ
てみましょう。


■関連リンク
中華航空140便墜落事故の概要
運輸安全委員会


中華航空機墜落事故
コンピュータ・クライシス


航空事故調査報告書 96-5 平成8年7月19日公表
Aircraft Accident in JAPAN


名古屋空港で中華航空140便エアバスA300-600Rが着陸に失敗炎上
失敗知識データベース


China Airlines Flight 140
Wikipedia, the free encyclopedia


China Airlines Flight 140 Accident Animation
FAA - Lessons Learned


Lessons Learned
Federal Aviation Administration


着陸 - Wikipedia

計器着陸装置 - Wikipedia

ILSアプローチ
航空実用事典


連邦航空局 - Wikipedia

昇降舵 - Wikipedia

Prevailing Cultural / Organizational Factors
FAA - Lessons Learned


Trimmable Horizontal Stabiliser
SKYbrary