次に、パイロットの習性と航空機メーカーの設計思想
のギャップによって引き起こされたエラーについて触
れてみたいと思います。
●パイロットの習性によるもの
(3:人間工学に反したパイロット不在の設計)
【実際の事例】
中華航空140便墜落事故
機長が語るヒューマン・エラーの真実(以後"書籍"と
記載)の中では、中華航空140便墜落事故をハイテ
ク機の典型的な事故として紹介していますね。
事故の詳細については、運輸安全委員会(旧:運輸
省航空事故調査委員会)による調査報告書(PDFファ
イル:以後一部を除き"報告書"と記載)を参照すること
もできますが、FAA(米連邦航空局)が公開している
"Lessons Learned From Transport Airplane Accide
nts"というサイト内で閲覧できるアニメーションを見ると、
いかに凄まじい挙動で事故に至ったかが良く分かり
ます。
まず、この事故について書籍の中では次のような
記述があります。
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この事故は起こるべくして起こったといえる。
それは第一に、ゴー・レバーの位置とその形状
からパイロットがスラスト・レバーに手を置いた場
合、ちょっとしたことで意に反しゴーアラウンド
モードに容易に入る可能性があるのを知ってい
て放置していたこと。
第二に、パイロットが急激な機首上げを修正し
ようと操縦桿を押すと、逆にスタビライザーが
いっそう機首上げ方向に作動するという、人間
工学の常識に反した機構を改善しなかったこと
だ。このことから、同じような事故がいつどこで
起こっても不思議ではない状況であった。
第一部 パイロットのヒューマン・エラー
航空機メーカーの設計思想に異議あり
(P.97-98)より
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ゴー・レバーは、スラスト・レバー(クルマで言うアクセ
ルのようなもの)と呼ばれる装置と共に取り付けられ
ており、このレバーを入れるとエンジンを全開にする
と同時に機首を上げて急上昇させる仕組みになって
いますが、本来は着陸時等で何らかの不都合が生
じた際に使うものです。
では、ゴー・レバーが実際どんな形になっていて、ど
れだけ誤操作が生じやすいものなのか?ということ
で報告書を読んでみると、確かにこれは何かの拍子
に誤って操作しかねない位置にあるな...という印象を
受けます。
写真51 分割したスラスト・レバー及び
ゴー・レバーとの位置関係
(報告書 96-5-B1816-08、P.163より)
実際、報告書 96-5-B1816-02 P.51にも"同型機のゴ
ー・レバーは、スラスト・レバーのノブの下方に位置し
ており、また、その作動方向が、スラスト・レバーを引
く方向、あるいはスラスト・レバーを握り締める指の動
く方向と同方向であったため、スラスト・レバーの通常
の操作中に、誤ってゴー・レバーを作動させる可能性
がある。"という記述がされています。
但し、緊急時利用というレバーの用途もあるので、文
字通りの脆弱性(ここでは対象となる物が持つ性質故
に生じる弱点という意味)を止む無く保持している感も
否めません。
また、"スタビライザー"とは水平安定板のことですが、
FAAによるアニメーションや運輸安全委員会の調査報
告書ではTHS(Trimmable Horizontal Stabilizerの略)
と記しています。
操縦翼面図
(報告書 96-5-B1816-05 P.120より)
飛行機の挙動を理解する際には、Yaw(ヨー:鉛直軸
周りの回転)、Pitch(ピッチ:機首の上げ下げ)、Roll
(ロール)という3つの軸が基礎となりますが、下記の
動画でエレベーターがPitchに関わることが分かります
ね。事故が発生したA300では、これに加えてTHSも作
動していたことになります。
また、3軸については、FAAが公開しているPilot's Hand
book of Aeronautical Knowledge(PHAK)というPDF版で
公開しているテキストのChapter 05内にある図でも知る
事ができます。
PHAK Chapter 5:Figure 5-4より
中華航空の事故では、特にPitchを扱う際における
パイロットの動きと自動操縦の競合が問題となるの
ですが、次回はどのような経緯で事故が発生したか、
FAAのアニメーションについている解説等を基に追っ
てみましょう。
■関連リンク
中華航空140便墜落事故の概要
運輸安全委員会
中華航空機墜落事故
コンピュータ・クライシス
航空事故調査報告書 96-5 平成8年7月19日公表
Aircraft Accident in JAPAN
名古屋空港で中華航空140便エアバスA300-600Rが着陸に失敗炎上
失敗知識データベース
China Airlines Flight 140
Wikipedia, the free encyclopedia
China Airlines Flight 140 Accident Animation
FAA - Lessons Learned
Lessons Learned
Federal Aviation Administration
着陸 - Wikipedia
計器着陸装置 - Wikipedia
ILSアプローチ
航空実用事典
連邦航空局 - Wikipedia
昇降舵 - Wikipedia
Prevailing Cultural / Organizational Factors
FAA - Lessons Learned
Trimmable Horizontal Stabiliser
SKYbrary
2013-11-09
人間工学に反したパイロット不在の設計-01
2013-05-04
速度計の誤作動に対応できなかった事例
更新が遅くなりましたが、続けたいと思います。
●パイロットの習性によるもの
(2:速度計の誤作動に対応できないことによる事故)
【実際の事例】
バージェン航空301便墜落事故
アエロペルー603便墜落事故
これらの事故は、メーデー!:航空機事故の真実と真相
という番組でも取り上げられていますね。
シーズン5 THE PLANE THAT WOULDN'T TALK
(バージェン航空301便墜落事故)
シーズン1 FLYING BLIND
(アエロペルー603便墜落事故)
飛行機の速度計は、英語で"Air Speed Indicator"と
呼ばれますが、ここでわざわざ英語による表記を出し
たのには理由があります。
ご存知の方もおられると思いますが、飛行機で"速度"
という言葉が出てきた場合、まずは次のような種類の
速度が出てきます。
●対気速度(Air Speed)
飛行機が受けている風圧を示す速度。
ここでは、まだ「?」と思うかもしれませんが、
とりあえず、次に進みましょう。
●対地速度(Ground Speed)
空では絶えず風が吹いていますから、飛行機が
エンジンの推力によって受ける風の速さ(つまり
対気速度)とイコールで移動できるとは限りません。
追い風なら機体は風に乗って速く移動できますし、
逆に向かい風なら風に押し戻される状態に抵抗
しながら進むので遅くなります。
空港のWebサイトなどで得られる飛行機の到着
時間は何をもって示されるかというと、この対地
速度というわけです。
「じゃあ、単純に移動時間が分かる対地速度だけ分
かっていればいいじゃないか」という声があるかもし
れませんね。でも、これはあくまで飛行機を輸送手
段として捉えた利用者側の話。
飛行機は一定以上の速度を超える風を翼へ当てる
事によって揚力を作り出して飛んでいるわけですか
ら、対気速度(Air Speed)という指標は操縦を行う
上で非常に大切な要素になります。速度計の英語
表記を持ち出したのは、このためです。
ちなみに著者は、速度がパイロットにとっていかに
大きなものか、次のように書かれています。
------------------------------------------------------------
パイロットにとって、速度は何にも増して優先
しなければならない。遅いと失速、速いと空中
分解というまさに命に直結するもので、そこか
ら速度第一主義に陥る運命的なものがある。
第一部 パイロットのヒューマン・エラー
(P.82)より
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では、それだけ大切な"速度(ここでは対気速度)"を
指し示す仕組みがどうなっているかというと、"Pitot
Static System"と呼ばれるものが関わっています。
Wikipediaで"Pitot-static system"として掲載されて
いる画像を引用して説明すると、Pitot Tube と書い
てある部分が飛行機の機種に応じた箇所に取り付
けられ、ここから入った空気が、機体側面に付いて
いる Static Port と呼ばれる箇所から抜けていく構
造になっているんですね。
また、Pitot Tube または Static Port どちらかの穴が
詰まってしまうと速度計が正常に機能しない状態に
陥ります。
バージェン航空の事故では、ドロバチが Pitot Tube
内部に巣を作って詰まらせていたことによって速度
計の動作異常が発生したと見られているそうですが、
個人的には、機長が離陸滑走中に自身と副操縦士
の各座席に装備されている速度計の指示が不一致
を示していることに気づきながら、離陸後にフライトを
継続したのは一体なぜだったのだろうという疑問が
あります。
例えばネットワーク機器を冗長構成で設置するという
事はそれだけ重要なシステムだからであって、設置中
に片側の系統が故障したと見られた場合にそのまま
作業を続行することはないだろうし、ましてや本番環境
なら...と思うのですが、これと同様に重要な計器の一つ
である速度計が異常な状態を保持したまま離陸でき、
かつ予備計器があったとしても、万一を考慮して空港
へ戻る事ができたのならば最悪の事態に至らず済ん
だのではないかとも思ってしまうわけです。
もちろん、航空機の操縦訓練には計器が故障した際に
備えるものがありますし、著者が勤務されている会社で
はバージェン航空やアエロペルーによる事故後、シミュ
レータを用いて速度計の故障をいち早く発見し、安全に
着陸するためのプログラムが取り入れられているそうで
すが、考えるほどにスッキリしない内容に感じます。
■関連リンク
Pitot Static Instruments ピトー静圧系統
CFI Japan
航空軍事用語辞典++ 指示対気速度
航空軍事用語辞典++ 較正対気速度
航空軍事用語辞典++ 真対気速度
「ピトー管」原因の墜落、過去にも
ニューズウィーク日本語版
2009年6月11日(木)17時00分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)
旅客機のコックピット - Wikipedia
6/6 (木) Partial panel
速度計などなくても飛行機は安全に飛ばせます。
目指せ!エアラインパイロット
2007/10/8(月) 午前 11:13
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